松本歯科大学 増田裕次教授インタビュー

カムカムメニューとは??

──「カムカムメニュー」はいつから行なっているのですか?

半年程前から行っています。カムカムメニューを実際に提供し始めたのは去年の秋頃からになります。

──カムカムメニューの構想は以前からあったのですか?

カムカムメニュー

構想というよりも、私自身は咀嚼(そしゃく)、口の機能、口の動きの研究をしている中で脳との関わりの基礎的な内容をずっと研究してきました。

食べるということ、咀嚼ということから『食育』ということが最近言われますので、食べるということで健康を考えると、よく噛むことで色々な食べのものを意識できるのではないかと考えています。
ただそれを「よく噛みなさい、噛みなさい!」と言われて噛むのではなく、多少なり噛みごたえがあるものを食べると、「あっ、これ歯ごたえあるね」「よく噛みましょうか」ということにつながります。そうすると今度は「これ何でできているの?」あるいは「どういう調理方法で作られているの?」ということを脳が考えてくれます。メニューを通して噛むことを意識するようにできないかと思っていました。それをもう少し広い範囲で発信できないかと思っていたのですが、信州大学中心の信州産学連携機構(SIS)に相談したところ、いわゆる地域ブランドのような形で、発信できないかという話がありました。

まず、実践からということで、歯科大内の学食でやってみて、皆さんがどう思われるか、あるいはそういう食べ物をうまく作る事が出来るのかということを行っていこうという話になったのです。
食堂の支店長・料理長に「一緒にやりませんか?」と話を持ちかけ、月に1回位行うことになりました。

──監修は先生がされるのですか?

実際のメニュー作りはもうお任せしています。ただ一番始めの時に、食材で固くする事ができるだろう。ということや調理方法でも固くすることができる。熱の入れ方とか、コーティングするものとか、もう一つは切り方でも固さを感じるだろう。あとは組み合わせでも感じることができるのではないかと…その辺をうまく考えてやってもらえればという話をしました。

学内での反応は・・・

──研究的な部分と監修部分でそのような成果はありましたか?

学内でアンケートを取らせてもらい、皆さんの食に対する感じ方というものを分析し、できれば研究ベースにしていきたいと考えました。

──具体的にはどのような反応、反響がありましたか?

カムカムメニュー

様々ですが、「割とおいしい」というものや、「個人的にはよく噛むことを意識する」というような意見を頂きました。 アンケートの結果では、「メニューを食べて満足されましたか?」というと、9割の人から「満足でした。」という意見を頂きました。
4択で「はい」「どちらかと言えば、はい」「どちらかと言えば、いいえ」「いいえ」と出題すると100%が「はい」です。但しそれは、カムカムメニューを自分でチョイスしているので、「満足している」と答えているのだと思われます。

「食材を意識したかどうか」というアンケートの結果と、何が一番関連性があったかというと、「固く感じた」というポイントと「食材を意識した」というものです。 逆に満足したというポイントと、食材を意識したというポイントはあまり関連性がありませんでした。 満足とは見た目もありますし、味もあります。多少好みもありますので、あまり食材を意識したということにはならないということです。逆に「固く感じたよ」と答えた人の方が、「そういえば食材を意識したね」と答えています。

これは私が考えるに、口の中で実際に感じるということは、歯ごたえひとつとってみても、色んな情報がありますが、少なからず脳に行くわけです。 ところが情報がいかないことや、あるいは情報がいったとしても通常の食事と同じとしか感じることが出来なければ、次のステップに意識がいかないのではないかなと考えます。 だから口から何らかの情報が脳に上がることはまず大切なことですし、それが普段とはちょっと違うことが起こる事で、食材を意識することができるのではないかと思います。

そのように考えると、最初に考えていたようにメニューを考えることで食を意識する、食べる事を意識するということを促す事ができるのではないかと考えています。

カムカムメニューを通して見えてきたものとは・・・

──それらはこういった活動を通してはじめてわかったことですか?

もちろんそうです。あまり意識調査みたいなことはやっていないし、こういう噛むこととそういう意識調査をしているということは、あまりないですね。

──わかってきたこととは別にこういった活動をされてきての課題はありますか?また、今後どのように地域に広げていきたいかというお考えはありますか?

もちろんあります。地域ブランドみたいな事を考えていたので、地域密着型としてもやっていきたい。 塩尻の農作物を生産されている方にもお会いし、こうしたコンセプトの食事も考えていますと、話をしようと思っています。 塩尻でひとつ地域としてのブランドとまではいかないが、地域ぐるみで考えているエリアだとすると、農産物とか食品を提供されている方々も、「噛む町塩尻」と意識できるのでは…そこまで言うかどうかわかりませんがねぇ…(笑)

『食』を意識した生活へ

──市の食育の基本計画づくりが終わり、次の3年後を作っていく際に、先生からのご意見お考えをいただければと思います。

カムカムメニュー

食育というのも国が言い出してからうたい文句のようになっているのですが、国も実際には実践段階にはなかなかうまくいっていなくて、そういった意味ではこういうメニューをみんなで考える、あるいは実際に食べて噛むことを意識すると、そこから食育を意識するということの一つのきっかけになるのではないかと考えています。
食べているものを意識できるような食事をとると、しっかりと覚えていて、食べ過ぎを気にされている方は、「今日は昼にああいうのを食べて、結構食べたね」とか「じゃあ次は間食はやめておこうか」とか、「夕食は控えめにしておこうか」とか、あるいは逆に「昼、野菜ばっかり食べてあんまりカロリー取らなかったね」と思えば、「じゃあ夜は多少豪華に食べてもいいかな」と、そういう食生活を意識できるようになるのではないかと思います。

──噛むことを意識すると、そこまでを意識できるようになるのですか?

なるのではないか?というのが僕のイメージです。 そのきっかけとして先程言ったように、固く感じればこそ食を意識するというような結果が出たので、これはもしかしたらなるのではないかと思っています。 「噛め、噛め、噛め、噛め」って言われて柔らかいものを30回噛みなさい。とか、あるいは昔だったら牛乳も噛んで飲みなさい。と言われました。 世の中には「噛む」ということを、噛む行為そのものがなぜか体にいいような風潮があるのです。

よく噛んで食べる事での体への影響

──この取材のためにいろいろ調べてきたのですが、よく噛むと虫歯が予防できるとか、よく噛むと情緒が安定するとか、食べすぎが予防できるとかいろいろないいことが載っていました。

虫歯が予防できようになるとか、消化吸収がよくなる。これは唾液との関係だとか、食物を粉砕しより細かくして体内に入れますから、そういったことは生理学上いいのです。唾液にもいろんな効能があるので、唾液をたくさん出るようによくゆっくり噛むことはいいことです。

ところが情緒が安定するとかたとえば賢くなるとか、あるいは肥満の予防も、噛む行為そのものが直接肥満の予防をすることと関係があるとは、まだわかっていないので、噛むことがダイレクトに体を痩せさせるという話ではないのです。
僕が思うのは、噛むということは実践でたくさん行われているわけです。よく噛むようなことを促すと、肥満ダイエットに繋がるということは、世の中には多々あります。このようなことが噛むことがいい、噛むことが肥満を予防する、ということに繋がっているのではと考えます。多分その噛むことが食を意識して、意識することが自分の生活を意識して、肥満を予防できると、僕はそういう段階があるのだと思っています。

普段少なからず肥満でダイエットしようと思っている人は、カロリーを気にしていますけれど、気にしても口に入れて知らぬ間に食べているということがあると思います。でもその時に毎回毎回噛むということを、あるいは噛むことが意識できる食材を食べることで、「あ!これ固い」というような刺激が意識できることになることで、「あっじゃ次控えよう」とか、そういうことがあるのではないかなと思います。 それは脳が、我々がどれほど意識しようとしても、素通りすることがあるからです。でも口からの情報が次から次へとくると、脳はいま固いぞと思えば、そういう自らが意識しようというところのスイッチを入れてくれるじゃないか?!ちょっとまやかしかもしれないけれど、でもなんとなくわかりますよねぇ。

──私も子供の頃、「よく噛んで食べなさい」と言われていました。何故噛まないといけないか理解できずにいた訳ですが。

違うかもしれませんが、ガムを噛んでいて痩せるかとういう話ですよね。噛む行動、行為だけをしていればいいというものではないのです。やはり食をしっかり意識するということが、噛むことと食を意識する事とうまくリンクすることで、噛むことに色々と効用があるのではないかと思います。

塩尻産の食材を使ったメニューづくりも

──地域にあった噛む文化がうまく根付けばいいと私も思いますし、そのためにも今後官の役目ですとか、企業の役目ですとか、学校の役目などの連携が必要だと思います。

カムカムメニュー

その一環として可能であれば松本歯科大学で塩尻産の野菜を使ったカムカムメニューとか、そういったことも将来的に実現をしていきたい。コストの問題もありますが、やっていきたいという話も、実はしています。そういう活動を通して、地域発信がもっとスムーズにできるのではないかと思います。

──「食」というのは分かり易いですし、発信しやすいですね。

一つの食材一つの味のものでなくて、皆さんが工夫をすれば色々できることだと思うので、どんどん広げていけると思います。歯医者側の立場からすると、そのためにはやっぱり「口を大切にしてくださいよ」と、少し歯が悪ければ早めに治して、あるいは良い入れ歯を入れて、食べるということをしっかりと楽しみ、噛むことを感じて食を意識しましょうということになることが、歯医者側にもいいかなというのが私の考えなのです。

多くの方が繋がるための接着剤になれれば

──最後に地域ポータルに期待する事、または、公社、行政に期待する事、望むことをお聞かせください。

ポータルに関しては、そこに聞き取り調査のようなことができるのならば、市民の方、一般の方の意見を聞きたいですね。一緒にやることは非常にいいことだと思います。 公社は官とつなげてくれてありがたい。 官はもうちょっと統一してやりましょう(笑) 商工課と農林課と教育といわゆる住民健康と、そういったものはバラバラにやっていたらダメだと思うんです。我々大学もそうで、縦割りはよくないと言われているのですけれど、やっぱり縦割り。それが難しかったら、僕らが逆にその横板になるので、今回もそうですが、農林課の方とか教育とか、食育とか、みなさんが有機的につながるツールに僕らがなれればと思うのですよ。 接着剤になれるならばね、うまく大学を利用してもらえればいいと思います。

──本日はどうもありがとうございました。

◆この日のカムカムメニュー◆
カムカムメニュー 【発芽玄米プレート】・かじきの天ぷら野菜あん・海藻サラダ・根菜スープ・ごぼうとこんにゃくの甘辛煮・野菜寄せ豆腐

◆栄養メモ◆
発芽玄米は白米よりも固いため、咀嚼回数が増えます。また、スープや野菜あん、付け合せの根菜類やこんにゃく、海藻などは食物繊維が多いため、自然と咀嚼回数が増えます。 よく噛んで美味しく!噛むことの刺激で身体に健康に!
(松本歯科大学内食堂にて、毎月第3木曜日に提供されます)